むし歯と全身疾患

2022.03.27

鹿児島市谷山ファミリー歯科クリニックの院長、永田です。
今回はむし歯と全身疾患について考えてみます。
20数年前、私が大学生だったころは歯周病のリスクファクター(なにが歯周病を悪くするのか)の
研究が盛んに行われており、それから、歯周病と全身疾患の研究が行われるようになりました。
歯周病のリスクファクターとしては、喫煙(ニコチンは歯に歯垢を付着させやすくし、免疫力も低下させると考えられています)、
糖尿病(歯周病になると血糖値コントロールを阻害するとされ、糖尿病のリスクにもなります)、ストレス(精神的・肉体的なストレスにより、免疫力が低下することがあります)歯並び(歯と歯が重なった部分や歯並びがガタガタした部分は、清掃しづらく細菌が溜まりやすいため、歯周病が進行しやすくなります)があげられます。
歯周病と全身疾患では、歯周病により、心臓血管疾患、糖尿病、低体重児出産などを引き起こすリスクが高まることが、知られるようになってきたと思われます。また、唾液に含まれる細菌が誤って気管支、肺に入ると気管支炎や誤嚥性肺炎の原因になります。
ここからは、むし歯と全身疾患について考えてみます。
むし歯原因菌として、ミュータンス連鎖球菌が有名ですが、ミュータンス連鎖球菌だけがむし歯の原因菌ではなく、
むし歯原因菌の種類は多いことが分かってきました。20世紀初頭から、歯の表面であるエナメル質にへばりつくミュータンス連鎖球菌と、強い酸をだすラクトバチラスが原因と考えられてきましたが、最近では、ビフィドバクテリウム属、スカルドビア菌、アクチノマイセス属、ベイヨネラ属、アトボビウム属、もむし歯に関与しており、むし歯は複数の菌種からなるむし歯関連細菌叢が作るのではないかと考えられるようになりました。
昭和初期には、むし歯が進行し歯根の先端部が膿んでしまい、そこからむし歯原因菌を含む多くの細菌種が血流に乗って、全身の臓器に運ばれる歯性病巣感染が知られていました。最近では、ミュータンス連鎖球菌と心内膜炎や微少脳内出血との関わりが分かってきました。ミュータンス菌すべてではなく、血管内のコラーゲンと結合することができるコラーゲン結合性タンパク質をもつcnm陽性ミュータンス連鎖球菌が口腔内の傷や、根尖病巣から毛細血管に侵入し、心内膜や脳血管までたどり着いて血管壁を傷つけ発症を促すことが分かってきました。このcnm陽性ミュータンス連鎖球菌は日本人の場合、5人に1人が保有しているとのことです。

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