むし歯菌の母子伝播は、必ず避けるべきか?

2022.01.31

むし歯の原因菌は「感染の窓」と呼ばれる生後19ヵ月から31ヵ月の期間に両親(主に母親)から伝播すると言われています。
フィンランドの生後23ヵ月から25ヵ月の子どもを対象として、プラークあるいは唾液中にミュータンスレンサ球菌が検出される最初の
時期と、むし歯の発生との関連を4歳まで追跡した研究によると、ミュータンスレンサ球菌の口腔内への定着が早いほど、むし歯の
発生の頻度が高いことが分かりました。このことは、ミュータンスレンサ球菌の定着とむし歯の発生が関連していることと共に、感染時期
とむし歯の発生とが深く関わり合っていることを示しています。言い換えると、ミュータンスレンサ球菌の感染、定着の時期を遅らすことが、
むし歯予防につながることが分かります。
ミュータンスレンサ球菌が口腔内に感染し定着しやすい条件は、菌量が多いほど、また、頻回に感染の機会があることが、ラットを用いた実験で
分かっています。乳幼児期における歯の萌出後のミュータンスレンサ球菌の伝播と定着の経路を考えると、育児を担当し、最も接触頻度の多い
母親が第一に考えられます。ですので、むし歯予防には、まず母子伝播を避けることと考えられ、母子が食器を共有しない事などにより、
大人の唾液が幼児の口腔内に入らないようにするのが最も大事とされてきました。もちろん、両親のむし歯治療と口腔清掃により、むし歯の
原因菌の量を減らしておくことも大切です。
母親からの伝播が最も頻度が高いとされているものの、両親からだけでなく、祖父母、兄弟、友達からの伝播ももちろん考えられます。
一方、むし歯原因菌の伝播はないほうがいいですが、ミュータンスレンサ球菌だけがむし歯を起こすわけでないことが分かったため、
むし歯を発症させるすべての細菌種の伝播を防ぐのが難しいこと、そして、伝播したとしても食事指導や、フッ化物の使用や、
適切なブラッシングで発症が予防できるため、それほど、神経質になる必要はないという考えが広がっています。
過度なむし歯原因菌の伝播予防は、親子関係を損なう可能性があることも理由の一つです。

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