デンチャー(入れ歯)プラーク(歯垢)って?

2021.07.22

プラークって聞いたことないでしょうか?

医科の分野では、プラークとは「血管プラーク」といい、血管内にできたお粥のようにじゅくじゅくとした脂肪の塊のことを指します。このプラークが血管の内部に付着し血液の流れを悪くしたり、石灰化によって動脈硬化の原因となったりします。
また、血管の内膜が破れてプラークの一部が剥がれ落ちると、血栓が血流にのって、体中をめぐり、血管をふさぐことで脳梗塞・心筋梗塞などの重大な病気を引き起こすことがあります。

私ども、歯科医療従事者にとってはプラークとは「歯垢」のことです。

歯垢と聞いて、「食べかすでしょ!」と思われるかもしれませんが、違います!

プラークと食べかすは全く別のものです。

お口の中に残った食べかすのことを私たちは「食物残渣(しょくもつざんさ)」と言います。

これは、お口の中に入った食べ物が歯と歯の間などに残ったものです。 それに対し、プラークはお口の中にいる細菌が歯の表面に付着し増殖したもので、「細菌の塊」です。肉眼で見えない細菌が目に見えるほどになるので、おびただしい数の細菌であることは想像できると思います。 1mgのプラーク内には1億個もの細菌が存在するとも言われています。

食べかすであれば、うがいや爪楊枝、スポンジブラシなどで簡単に取れますが、プラーク(歯垢)はそういうわけには行きません。 細菌であるプラークは、「生きていくため・増殖するため」に歯の表面にしっかりとくっついており、しかも簡単に破壊されないように「バイオフィルム」というバリアのようなものを作って自分たちを守っています。お薬のみで化学的にプラークを除去することは不可能で、物理的に除去(歯ブラシやフロス・歯間ブラシなどでの清掃)するしかないのです。 歯磨き粉の薬効成分が細菌をやっつけるように思われている方もいらっしゃると思いますが、歯磨き粉やデンタルリンスはあくまでも補助的なものです。歯ブラシなどで擦り落とさないと基本的には除去できません。 お口の中は温かく、水分も豊富で、しかも飲食物の糖分も存在し細菌にとってはまさに天国なのです。 このような環境では細菌が増殖しやすく、細菌のつくりだす酸や毒素によってむし歯や歯周病になったり、口臭の原因にもなっていきます。

前述のとおり、プラーク(歯垢)は物理的に歯磨きなどで除去するしかありませんので、適切な歯磨きを行うことが最も重要です。 なんとなく磨いていたり、歯磨きを面倒に思っていた方は、「プラーク(歯垢)対策」を意識して、ぜひ丁寧な歯磨きを実践してみてください。

ところで、入れ歯にはプラーク(歯垢)は付着しないって思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、入れ歯は人工物なので、入れ歯そのものは当然、むし歯になることはありません。ですが、入れ歯にもお手入れに問題があれば、お口の中の細菌が付着してきます。専門用語ですが、「デンチャープラーク」という言葉があります。

これは、入れ歯(デンチャー)に付着した歯垢(プラーク)のことです。

デンチャープラークも、細菌の塊で、カンジダと言う真菌類(カビの一種)も存在します。この菌により入れ歯を支える歯肉などに炎症を生じさせ問題を起こすこともあります。
入れ歯には総入れ歯と部分入れ歯がありますが、入れ歯の形態が複雑になる程デンチャープラークが付着しやすく、また清掃等で取りにくく残ってしまいます。このデンチャープラークがさらに石灰化し付着が強くなると歯石となり、ブラシや入れ歯洗浄剤などでは取れなくなってしまいます。このような歯石が付着すると、さらに汚れが付きやすくなり、より不潔な状態になります。また入れ歯の表面がザラザラとした状態となり舌感や見た目などの審美的な問題を生じることもあります。また、入れ歯の適合が悪くなり痛みを生じやすくなる事もあります。
デンチャープラークは入れ歯やその下の粘膜にトラブルを生じさせるだけではなく、入れ歯を支えている歯やその歯を支える歯周組織にも大きな問題を生じさせることもあります。歯の残存状態にもよりますが、特に部分入れ歯を使用されている方に大きく関係してきます。部分入れ歯は義歯床と呼ばれるピンク色のところと人工歯が付いている部分、クラスプと呼ばれる金属のバネの部分があります。義歯床と呼ばれる部分に関しては、ここにデンチャープラークが付着すると義歯の適合性や入れ歯を支える歯肉に悪影響を生じさせますが、クラスプと呼ばれる金属のバネの部分にデンチャープラークが付着した状態になると入れ歯を支える歯や歯周組織に悪影響となってきます。歯に関しては「むし歯」です。歯は磨いていても、入れ歯に着いた汚れをしっかり除去しておかないと、この中の細菌が歯に感染しむし歯を生じさせます。歯周組織に関しては「歯周病」です。汚れはその歯だけに留まると言う訳ではありません。歯肉にも感染し歯を支える歯周組織を破壊していきます。むし歯・歯周病が進行し重傷になってしまうと大切な歯を失うこともあります。なので、歯と同様に入れ歯もしっかりとお手入れをする必要があります。お手入れの際は、入れ歯用のブラシ、義歯洗浄剤を併用することをお薦めします。どちらかだけだと汚れ・細菌が取り切れず残ってしまいやすいからです。
“入れ歯だから歯磨きは大丈夫”、とか“入れ歯はお手入れが簡単”と言う事ではなく、入れ歯をお使いの方は、残っているご自分の歯と、入れ歯とお手入れを頑張ってください。そしてより充実した食生活をおくっていただければと思います。

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