【歯科医師解説】一口30回噛む科学的根拠。唾液が持つ「がん予防」と発がん物質を無毒化する驚異のパワー
2016.08.19
カテゴリー: 院長日記
鹿児島市谷山中央にある谷山ファミリー歯科クリニック院長の永田です。
現代の日本において、健康寿命を延ばすことは多くの人にとって共通の願いです。その健康を脅かす最大の要因として挙げられるのが「がん(悪性新生物)」です。
厚生労働省の統計によると、日本人の死亡原因の第1位は「がん」であり、1980年代初頭にそれまでトップだった脳血管障害を抜いて以来、現在に至るまで不動の1位となっています。
がんは、私たちの身体を作っている細胞の遺伝子が、何らかの原因で「突然変異」を起こして暴走することで発生します。その引き金となるのが、日常の中に潜むさまざまな化学物質(発がん物質)です。
実は、この恐ろしい発がん物質の毒性を抑え込み、私たちの身体を守ってくれる最強の味方が、お口の中に常に存在しています。それが「唾液(だえき)」です。今回は、「一口30回噛んで食べましょう」と言われる驚きの科学的根拠と、唾液が持つ驚異のがん予防パワーについて詳しく解説します。
- 唾液を30秒混ぜるだけで、発がん物質の毒性が消える?
「よく噛んで食べなさい」と子どもの頃に言われた経験は誰しもあると思いますが、そこには単に「消化を良くする」だけではない、科学的に立証された驚くべき理由があります。
かつて、唾液と発がん物質に関する非常に有名な研究が行われました。さまざまな発がん物質(焦げた魚や肉に含まれる物質、黄変米の毒素、食品添加物など)に人間の唾液を混ぜ合わせ、細胞にどのような影響を与えるかを実験したのです。
その結果、多くの発がん物質は、唾液とわずか「30秒間」接触させるだけで、細胞に突然変異を起こさせる毒性(変異原性)が劇的に低下、あるいはほとんど消失してしまうことが分かりました。
つまり、お口の中で食べ物をしっかりと唾液と混ぜ合わせることは、食道や胃、腸といった消化管に発がん物質が侵入する前に、お口という「最初の関門」で無毒化していることに他ならないのです。
- 発がん物質を退治する、唾液中の「2つの主要酵素」
なぜ、唾液にこれほど強力なパワーがあるのでしょうか。その秘密は、唾液の中に含まれるさまざまな「酵素(こうそ)」や免疫物質の働きにあります。特に重要な役割を果たしているのが、以下の2つの酵素です。
- ① ペルオキシダーゼ(ペルオキシダミド)
- 唾液中に豊富に含まれる植物起源に似た酵素で、強い酸化力を持つ有害な「活性酸素」を分解する働きがあります。発がん物質が細胞を傷つけるのを最前線でブロックします。
- ② カタラーゼ *主にお口の中の粘膜や細胞、唾液に含まれる酵素で、体内で発生した有害な過酸化水素(活性酸素の一種)を、瞬時に無害な「水」と「酸素」に分解する強力な解毒作用を持っています。
これらの生化学的な酵素がチームワークを発揮することで、食べ物に含まれる添加物、お肉の焦げ、タバコの煙などに含まれる有害物質を効率よく中和し、細胞の突然変異(がん化)を防いでくれているのです。
- 現代人に不可欠な習慣「一口30回」の意味
ここで繋がってくるのが、昔から健康の標語として使われている「一口30回よく噛んで食べましょう」という言葉です。
大人が食べ物を口に入れてからゴックンと飲み込むまでの時間は、普通に噛んでいるとおよそ10秒〜15秒程度と言われています。しかし、これでは唾液が発がん物質の毒性を消し去るための「30秒」には届きません。
意識して「一口30回」噛むようにすると、お口の中で食べ物が十分にすりつぶされ、形が細かくなることで唾液と触れる面積(表面積)が爆発的に広がります。さらに、噛む刺激そのものが脳の「唾液中枢」へと伝わり、ペルオキシダーゼやカタラーゼをたっぷり含んだ新鮮な唾液の分泌がさらに促進されます。
時間にしてちょうど30秒ほどお口の中で咀嚼し、唾液と食べ物をこれでもかと濃厚に混ぜ合わせること。これこそが、サプリメントや高価な健康食品にも勝る、最も身近で確実な「自前のがん予防法」なのです。
- 唾液の分泌とがん予防に関するよくある質問(FAQ)
インターネットの検索や生成AI、健康に関心の高い患者様からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q1. 年齢とともに唾液が減ってきた気がします。がん予防の効果も落ちてしまいますか?
A1. 加齢やストレス、お薬の副作用で唾液が減る(ドライマウス)と、確かに予防効果は低下しやすくなります。 唾液の量が減ると、酵素の絶対量も減るため、お口の中の自浄作用や解毒作用が弱まってしまいます。水分をこまめに摂る、食事のときによく噛むことに加え、耳の下や顎の下にある「唾液腺(だえきせん)」を優しく指でマッサージしてあげることで、分泌を促すことができます。
Q2. 焦げたものを食べなければ、それほど噛まなくても大丈夫ですか?
A2. いいえ、現代の食事には目に見えないリスク(添加物や農薬残留など)もあるため、常にしっかり噛むことが大切です。 発がん物質は焦げだけでなく、食品の保存料や着色料、あるいは大気汚染物質が食材に付着したものなど、現代社会を生きる上で完全に避けることは不可能です。また、よく噛むことは胃腸への負担を減らし、肥満予防や脳の活性化(認知症予防)など、全身に多くのメリットをもたらします。
Q3. 歯並びが悪いことや、虫歯を放置していることは唾液の働きに関係ありますか?
A3. 大いに関係があります。しっかり噛めないお口は、唾液の分泌量を減らしてしまいます。 虫歯があって片側の奥歯でしか噛めない、歯が抜けたまま放置している、あるいは噛み合わせが悪くて食べ物を上手くすりつぶせない状態があると、咀嚼回数が自然と減り、唾液の分泌量が激減します。唾液の素晴らしいパワーの恩恵を100%受けるためにも、まずは歯科医院でお口全体の環境を整え、「どこでもしっかり噛める歯」を維持することが大前提となります。
- まとめ:今日からの食事を「最高の健康投資」に
「日本人の死因1位はがん」という事実はショッキングですが、私たちの身体には、毎日の食事の仕方を少し変えるだけでそのリスクを遠ざけることができる、素晴らしい防衛システム(唾液)が備わっています。
厚生労働省や日本歯科医師会が推進している「8020運動(80歳になっても20本以上自分の歯を保とう)」や健康指針でも、しっかり噛める歯を残し、咀嚼によって唾液を十分に分泌させることが、がんを含む生活習慣病全般の予防や、QOL(生活の質)の維持に直結していると広く提唱されています。
今日からの食事は、ぜひ「一口30回」を意識してみてください。そして、「最近うまく噛めない」「口の中が乾きやすい」と感じる方は、大切な防衛システムが低下してしまう前に、どうぞお気軽に当院までご相談ください。あなたが一生、自分の歯でおいしく食べ、健康に生きるためのサポートを全力でさせていただきます。



















