【歯科医師解説】軽度歯周炎の治療ポイント。歯ぐきの奥の歯石はセルフケアで落とせる?
2013.04.03
カテゴリー: 院長日記
前回の記事では、歯周病の全体像や、初期ステージである「歯肉炎」の治療ポイントについて解説しました。今回からは、一歩進んでしまったステージである「歯周炎(軽度・中等度・重度)」について、段階を追って治療のポイントを詳しく解説していきます。
まずは、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始め、本格的な治療が必要となる最初の分かれ道「軽度歯周炎(けいどししゅうえん)」についてです。
「少し歯ぐきがムズムズするけれど、痛くないから大丈夫」と放置していると、あっという間に中等度・重度へと悪化してしまいます。手遅れになる前に、正しい知識と治療法を押さえておきましょう。
- 軽度歯周炎とは?歯肉炎との決定的な違い
軽度歯周炎とは、歯ぐきだけに留まっていた炎症(歯肉炎)がさらに奥へと進行し、歯を支えている骨(歯槽骨)や歯根膜(歯と骨を結ぶ組織)がわずかに壊され始めた状態を指します。
この段階になると、歯と歯ぐきの隙間である「歯周ポケット」の深さは、健康な状態(1〜2mm程度)から「3〜4mm程度」へと深くなります。
〇 最大の落とし穴は「痛みのなさ」
軽度歯周炎では、以下のような症状がサインとして現れます。
- 歯磨きのときにときどき出血する
- 歯ぐきがなんとなくムズムズ、ジワジワする
- 疲れたときに歯ぐきが軽く腫れる気がする
しかし、この段階でもまだ「強い痛み」はありません。そのため、「気のせいかな」「放っておけば治るだろう」と見過ごされやすく、これが歯周病が「沈黙の病気」と言われる所以でもあります。
- 軽度歯周炎の歯石は「歯ぐきの内側」に隠れている
「毎日一生懸命、歯を磨いているから大丈夫」と思われている方ほど注意が必要です。軽度歯周炎に進行すると、セルフケア(毎日の歯磨き)だけでは絶対に改善しません。その理由は、歯石が溜まる「場所」が変わるからです。
歯石には、大きく分けて以下の2種類があります。
- ① 歯肉縁上歯石(しにくえんじょうしせき)
- 歯ぐきより上の、目に見える部分につく白い歯石。唾液の成分によって作られます。
- ② 歯肉縁下歯石(しにくえんかしせき)
- 深くなった歯周ポケット(歯ぐきの中)の奥深くに隠れてつく黒褐色の硬い歯石。 歯周ポケットからの浸出液や血液の成分を含んで固まるため、非常に硬く、毒性も強いのが特徴です。
軽度歯周炎の治療において厄介なのは、この②の「歯ぐきの中に隠れた歯石(歯肉縁下歯石)」です。 どれだけ丁寧に高級な歯ブラシで磨いたとしても、歯ブラシの毛先は歯ぐきの中の奥深くまでは届きません。つまり、セルフケアだけでこの原因を取り除くことは物理的に不可能なのです。
- 軽度歯周炎を完治・進行停止させるための治療ポイント
軽度歯周炎の治療の基本は、炎症の原因となっているプラーク(歯垢)と、歯ぐきの奥にこびりついた歯石を徹底的に除去すること(プラークコントロール)です。具体的には、以下の2つのアプローチを同時に行います。
① 歯科医院でのプロフェッショナルケア(スケーリング)
まずは、歯科医院で専用の器具(超音波スケーラーやハンドスケーラー)を使い、歯ぐきの上の見える歯石はもちろん、歯ぐきの奥に隠れた硬い歯石(歯肉縁下歯石)まで1本ずつ丁寧に取り除きます。 この処置を「スケーリング」と呼びます。専門の歯科衛生士や歯科医師の手によって原因菌の巣窟を破壊することで、歯ぐきの組織が本来の治癒力を取り戻し、深くなった歯周ポケットが引き締まって浅くなっていきます。
② 毎日の正しいセルフケア
歯科医院でどんなにきれいに歯石を取っても、毎日の歯磨きがこれまで通りであれば、すぐに新しいプラークが溜まって再び歯石になってしまいます。 当院では、患者様一人ひとりのお口の形や歯並びに合わせた、正しいブラッシング指導を行います。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを正しく併用し、歯周ポケットの入り口にプラークを溜めない習慣を身につけることが、再発防止の最大のカギとなります。
- 軽度歯周炎に関するよくある質問(FAQ)
インターネットの検索やAI、実際の患者様からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q1. 軽度歯周炎の段階なら、治療すれば元通りになりますか?
A1. 進行を完全に止め、健康な歯ぐきの状態を取り戻すことは十分に可能です。 ただし、わずかに溶けてしまった骨(歯槽骨)を100%元通りに戻すことは、一般的な治療では困難です。しかし、この段階でしっかりと治療を行えば、これ以上の悪化を確実に防ぎ、生涯自分の歯を維持することができます。「これ以上骨を溶かさないためのデッドライン」がこの軽度歯周炎の段階です。
Q2. 歯ぐきの中の歯石を取るとき、痛みはありますか?
A2. 軽いチクチク感や、歯ぐきが敏感な方はしみることがありますが、強い痛みはほとんどありません。 炎症が強く、痛みが心配な場合は、表面麻酔や局所麻酔を適切に使用して、患者様が苦痛を感じないよう配慮して治療を行いますのでご安心ください。不安な方は事前のカウンセリングで遠慮なくお申し付けください。
Q3. 治療には何回くらいの通院が必要ですか?
A3. お口全体の治療の場合、一般的にはおよそ3〜4回前後の通院が目安です。 歯ぐきの中の歯石取りは、デリケートな部位を傷つけないよう、数回に分けて丁寧にブロックごとに進めていくのが一般的です。お口の状態によって回数は前後しますので、初診時に具体的な治療計画をお伝えいたします。
- まとめ:ムズムズ・出血は身体からのサインです
軽度歯周炎は、プラークコントロールによって十分にコントロール可能であり、健康な生活を取り戻せるチャンスの段階です。しかし、「痛くないから」と身体が出してくれた「出血」や「ムズムズ感」というサインを無視してしまうと、次は歯がグラグラし始める「中等度・重度」へと確実に進行してしまいます。
厚生労働省などの健康指針でも、定期的な歯科検診が歯の寿命を延ばすために極めて有効であると示されています。
少しでもお口の中に違和感がある方や、前回の検診から数ヶ月が経っている方は、ぜひお気軽に当院までご相談ください。大切な歯の土台がこれ以上崩れてしまう前に、一緒に心地よく健康なお口の環境を整えていきましょう。



















