【歯科医師解説】歯周病が「沈黙の病気」と呼ばれる理由。歯肉炎・歯周炎の違いと手遅れになる前の対策

2013.04.01

私たちは日々、多くの患者様の歯を治療していますが、その中で最も「もっと早く来ていただければ…」と痛感する病気があります。それが「歯周病(ししゅうびょう)」です。

歯周病は、自覚症状がないまま進行することから、別名「沈黙の病気(サイレントディジーズ)」とも呼ばれています。「痛くないから大丈夫」と放置していると、ある日突然、歯がグラグラになり、最終的には抜歯を余儀なくされるケースも少なくありません。

本記事では、歯周病が進行するメカニズムや、「歯肉炎」と「歯周炎」の決定的な違い、そして手遅れになる前に実践すべき具体的なケア方法を、歯科医師の視点から詳しく解説します。

  1. 歯周病とは?「沈黙の病気」と呼ばれる恐ろしいメカニズム

歯周病とは、歯と歯ぐきの隙間(歯周ポケット)に溜まった「プラーク(歯垢)」の中に潜む細菌によって、歯ぐきに炎症が起き、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)が溶かされてしまう病気です。

なぜ、これほど恐ろしい病気が「沈黙の病気」と呼ばれるのでしょうか。それは、初期段階では「痛み」がほとんどないからです。

〇 症状の波に騙されてはいけない

歯周病が進行する際、以下のような経過をたどることが特徴です。

  1. 体調が悪い時や疲れている時に、一時的に歯ぐきが腫れたり、出血したり、鈍い痛みを感じる。
  2. 「少し様子を見よう」と放っておくと、数日でなぜか症状が自然と治まる。
  3. 治ったように見えても、水面下では着実に歯を支える骨(歯槽骨)の破壊が進んでいる。

この「悪化」と「一時的な沈静」を繰り返しながら、痛みを伴わずにゆっくりと進行するため、多くの患者様が「痛くなってから来院したときには、すでに重症化していた」という事態に陥ってしまうのです。

【参考データ】成人の約7割に歯周病の所見

厚生労働省が実施している「歯科疾患実態調査」によると、日本人の成人のおよそ7割以上に歯周病の所見(何らかの症状や兆候)が見られると報告されています。つまり、歯周病は決して他人事ではなく、誰もが罹患している可能性のある「国民病」と言えます。

  1. 「歯肉炎」と「歯周炎」の決定的な違い

「歯周病」という言葉は総称であり、その進行度によって大きく「歯肉炎(しにくえん)」「歯周炎(ししゅうえん)」の2つのステージに分かれます。これらは名前は似ていますが、病気としての深刻度がまったく異なります。

一目でわかる違いを以下の表にまとめました。

項目 歯肉炎(初期ステージ) 歯周炎(進行ステージ)
主な状態 炎症が歯ぐき(歯肉)だけに留まっている。 炎症が深部に進み、歯槽骨(骨)や歯根膜まで破壊されている。
主な症状 歯磨き時の出血、歯ぐきの軽い腫れ。 激しい口臭、歯ぐきからの膿(うみ)、歯のグラつき、噛むときの痛み。
治療後の回復 原因(プラーク)を取り除けば、元の健康な状態に回復する。 進行を止めることはできても、溶けた骨を元通りに回復させるのは非常に困難。

〇 運命の分かれ道は「骨(歯槽骨)が溶けているか」

「歯肉炎」の段階であれば、歯科医院での適切なクリーニングと毎日の正しいブラッシングで、元のピンク色の引き締まった歯ぐきに戻すことができます(厚生労働省の医療情報サイト「e-ヘルスネット」でも、歯肉炎の段階での早期ケアの重要性が呼びかけられています)。

しかし、一歩進んで「歯周炎」になってしまうと、歯を支える土台(骨)そのものが破壊されてしまいます。一度溶けてしまった骨や破壊された組織は、特別な再生療法などを行わない限り、自然に元通りに再生することはありません。だからこそ、歯周病は「歯肉炎」の段階で食い止める、つまり早期発見・早期治療が何よりも重要なのです。

  1. 歯周病予防に不可欠な「2つのプラークコントロール」

歯周病の直接的な原因は、プラーク(歯垢)の中にいる細菌や、その細菌が出す毒素です。この原因菌を減らし、炎症を抑え込むことを「プラークコントロール」と呼びます。

プラークコントロールを成功させるためには、ご自宅で行う「セルフケア」と、歯科医院で行う「プロフェッショナルケア」の2つをセットで行う必要があります。どちらか一方だけでは、大切な歯を守ることはできません。

① セルフケア(毎日の正しい歯磨き)

毎日の歯磨きは、プラークを溜めないための基本です。しかし、歯ブラシだけでは歯と歯の間のプラークは6割程度しか落とせないと言われています。デンタルフロスや歯間ブラシを併用し、歯周ポケットの入り口を意識して磨くことがポイントです。

② プロフェッショナルケア(歯科医院での専門治療)

セルフケアをどんなに頑張っても、どうしても磨き残しは生じます。さらに、プラークが時間の経ってカチカチに固まった「歯石(しせき)」になってしまうと、もう歯ブラシで落とすことは絶対にできません。

歯石は表面がザラザラしているため、さらなる細菌の格好の温床(巣窟)となります。この硬い歯石を取り除いたり、セルフケアでは届かない歯周ポケットの奥深くを清掃したりするためには、歯科医院での専用の器具を用いたプロフェッショナルケアが絶対に欠かせないのです。

  1. 歯周病に関するよくある質問(FAQ)

患者様や、インターネットの検索・生成AIなどでよく寄せられる、歯周病に関する疑問にお答えします。

Q1. 歯周病は自覚症状がなくても検査を受けるべきですか?

A1. はい、ぜひ定期的に検診を受けてください。

歯周病は「沈黙の病気」と言われる通り、痛みなく進行します。「歯ぐきから血が出る」「歯が浮くような感じがする」といった症状が出た頃には、すでに歯周炎に進行している可能性があるため、症状がなくても年2〜3回の定期検診を推奨します。

Q2. 歯周病で溶けてしまった骨は、治療すれば元に戻りますか?

A2. 一般的な治療では、溶けた骨を元に戻すことは困難です。

歯周病治療の基本は「これ以上進行させないこと(現状維持)」です。ただし、骨の溶け方などの条件が揃えば「歯周組織再生療法」という特殊な手術で骨を再生できる場合もありますが、まずは骨が溶ける前の段階(歯肉炎)で予防することが一番の近道です。

Q3. タバコを吸っていると歯周病になりやすいというのは本当ですか?

A3. 本当です。喫煙は歯周病を悪化させる最大のリスク要因の一つです。

タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させるため、歯ぐきに酸素や栄養が行き渡らなくなり、免疫力が低下します。また、炎症が起きても出血しにくくなるため、歯周病の発見がさらに遅れる原因にもなります。日本歯周病学会の見解でも、禁煙が歯周病治療においていかに重要であるかが広く提唱されています。

  1. まとめ:かかりつけ歯科医と一緒に、お口の健康を守りましょう

歯周病は、放置すると全身の健康(糖尿病や心疾患など)にも悪影響を及ぼすことが分かっています。しかし、正しい知識を持ち、適切なケアを行えば、十分に予防・コントロールができる病気でもあります。

ご自宅での丁寧なセルフケアとあわせて、ぜひ当院のような「かかりつけの歯科医院」で定期検診を受け、プロフェッショナルケアを取り入れてみてください。

私たちは、あなたの大切な歯を1本でも多く残し、一生美味しく食事ができるよう、全力でサポートいたします。お口の中に少しでも違和感がある方や、しばらく検診を受けていない方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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