エナメル質形成不全症とは~子どものために知っておきたいこと

2026.01.19

「ママ、見て!歯が生えてきたよ!」

お子様が嬉しそうに鏡を見つめる姿は、親にとって何よりも幸せな瞬間です。しかし、よく見るとその歯、何だか他の歯と色が違う…?白い斑点があったり、茶色っぽかったり、表面がザラザラしているような…?
「むし歯かな?でも、生えたばかりなのに?」
そんな不安を抱えながらクリニックに駆け込んだ親御さんは少なくありません。そして、そこで初めて「エナメル質形成不全症」という診断を受けたとき、多くの方が戸惑いと心配に包まれます。

「この歯はもうだめなのかしら?」

今、同じような不安を抱えている方もいらっしゃるかと思います。でも、どうか安心してください。
エナメル質形成不全は決して珍しい症状ではなく、適切な知識とケアで、お子様の大切な歯を守ることができるのです。

実は、7~9歳の子どもの5~10人に1人がこの症状を抱えていると言われているのです。

エナメル質形成不全症とは?~歯を守る鎧「エナメル質」~

まず、歯の構造について簡単にご説明します。私たちの歯は、いくつかの層で構成されています。その最も外側にあるのが「エナメル質」です。このエナメル質は、体の中で最も硬い組織で、歯を外部の刺激から守る鎧のような役割を果たしています。

エナメル質形成不全症とは、この大切な「鎧」が生まれつきうまく作られていない状態のことです。歯が骨の中で形成される段階―つまり、妊娠中や乳幼児期に、何らかの理由でエナメル質の発育が妨げられてしまうのです。

どんな見た目になるの?

エナメル質形成不全の歯には、いくつかの特徴的な見た目があります

  • 白濁・白斑:歯の表面に白い斑点や帯状の模様が現れる
  • 黄色や茶色の変色:濃い白、黄色っぽい色、茶色に変色している
  • 表面の凹凸:歯の表面がザラザラしていたり、デコボコしている
  • 歯の欠け:エナメル質が薄いため、欠けやすい

特に目立ちやすいのが、6歳臼歯(最初に生えてくる永久歯の奥歯)や前歯です。お子様がニコッと笑ったときに、「あれ?」と気づかれることが多いです。

なぜ、うちの子が?―エナメル質形成不全の原因

「私のせい?」―その答えは
診断を受けたとき、多くのお母さんが自分を責めてしまいます。でも、どうか自分を責めないでください。エナメル質形成不全の原因は非常に複雑で、多岐にわたります。

妊娠中の影響

エナメル質形成不全の原因の一つとして、妊娠中のお母さんからの影響が考えられています。

  • 栄養不足:妊娠中のつわりで十分に食べられず、カルシウムやビタミンDが不足すると、お腹の中の赤ちゃんの歯の形成に影響を及ぼすことがあります
  • 早産や低出生体重:予定より早く生まれたり、出生時の体重が少なかったりする場合
  • 妊娠中の感染症や薬の服用:特定の薬物や感染症が影響することもあります

しかし、これらはあくまで「リスク要因」であって、「原因」ではありません。栄養に気をつけていても、健康に過ごしていても、エナメル質形成不全になることはあるのです。

乳幼児期の影響

  • 高熱や感染症:乳幼児期に高熱が続いた、重い病気にかかった
  • 外傷:乳歯をぶつけたり怪我をしたりすると、その下にある永久歯の形成に影響することがあります
  • ホルモンバランスの乱れ:内分泌異常や代謝異常

遺伝的要因

遺伝的な要因も関与していることがわかっています。ご家族に同じような症状を持つ方がいる場合もあります。

MIH(モラー・インサイザー・ハイポミネラリゼーション)

最近特に注目されているのが、「MIH」と呼ばれる症状です。これは第一大臼歯(6歳臼歯)と前歯に現れるエナメル質形成不全の一種です。正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、出生前後の環境的ストレス(早産、病気、抗生物質の使用など)が関与している可能性が指摘されています。

つまり、エナメル質形成不全は「誰かのせい」ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って起こるものなのです。

「これからどうなるの?」―エナメル質形成不全のリスク

むし歯になりやすい

エナメル質形成不全の最大の問題は、むし歯になりやすいということです。

エナメル質という鎧が薄かったり弱かったりするため、むし歯菌の攻撃を受けやすく、一度むし歯になると進行が早いのです。また、知覚過敏になりやすく、冷たいものや甘いものがしみることもあります。

そんなに心配しなくても大丈夫です!

ここで大切なのは、「エナメル質形成不全=歯がダメになる」ではないということです。適切なケアと定期的な歯科受診によって、お子様の歯を健康に保つことは十分に可能なのです。

今日からできる!家庭でのケア方法

1. 仕上げ磨きは12歳まで

「もう大きいから自分で磨ける」と思っても、実はすべての歯が永久歯に生え変わる12歳頃までは、親御さんによる仕上げ磨きが理想的です。

特にエナメル質形成不全の歯は、より丁寧なケアが必要です。柔らかめの歯ブラシで、優しく、しかし確実に汚れを落としてあげてください。

2. フッ化物を味方につける

フッ化物配合歯磨き粉の使用はエナメル質を強化する強力な味方です。お子様の年齢に応じた適切なフッ化物濃度の歯磨き粉を選びましょう。

また、歯磨き後に使用するフッ化物配合ジェルやMIペーストといった製品も、歯質を強化してくれます。かかりつけの歯科医師に相談して、お子様に合ったケア用品を選んでください。

3. 食生活の見直し

  • 砂糖の多い飲食物を控える:ジュースやお菓子はむし歯菌の大好物です
  • ダラダラ食べをしない:食事の時間を決めて、お口の中が酸性の状態が続かないようにしましょう
  • カルシウムやビタミンDを意識した食事:牛乳、チーズ、小魚、卵などを積極的に取り入れて

4. 定期検診は欠かさずに

エナメル質形成不全のお子様にとって、3~4ヶ月に一度の定期検診は必須です。歯科医院では、家庭では磨ききれない細かい部分のクリーニングや、高濃度のフッ化物歯面塗布を行います。

早期発見・早期対応が、お子様の歯を守る鍵なのです。

歯科医院での治療法

軽度の場合

色の変化だけで、歯の機能に問題がない場合は、積極的な治療は行わず、定期的なフッ化物歯面塗布経過観察が中心になります。また、シーラント(歯の溝を埋める予防処置)を行うこともあります。

中等度の場合

歯が欠けている、明らかに弱っている場合は、コンポジットレジン(歯科用プラスチック)で修復します。表面を薄く削り、白い詰め物をすることで、見た目も機能も改善できます。

重度の場合

広範囲にエナメル質形成不全がある場合や、前歯で審美性が気になる場合は、かぶせ物による治療を行うこともあります。お子様の成長段階や歯の状態に応じて、最適な治療法を選択します。

寄り添う心~親として大切にしたいこと

「違い」を受け入れる勇気

エナメル質形成不全の診断を受けたとき、多くの親御さんが戸惑います。
「あなたの歯は少し特別なんだ。だから、もっと丁寧に大切にしようね」
そんな前向きな言葉で、お子様と一緒に向き合っていきましょう。

「できること」に目を向ける
エナメル質形成不全は、確かにハンディキャップかもしれません。
でも、適切なケアで健康な状態を保つことは十分に可能です。

・定期検診に通うことで、早期発見・早期治療ができる
・丁寧な歯磨き習慣が身につく
・自分の体を大切にする意識が育つ

このような「できること」「得られるもの」に目を向けることで、お子様も親御さんも前向きになれるはずです。

歯科医院とのパートナーシップ

かかりつけの歯科医院は、お子様の歯を守る心強い味方です。わからないこと、不安なことは遠慮なく相談してください。
歯科医院での直接の指導は、親御さんからの注意以上に効果的です。
「歯医者さんが言ってたから、ちゃんと磨こうね」という言葉かけも有効です。

おわりに~愛するわが子の笑顔を守るために

エナメル質形成不全と診断されたとき、大きな不安に包まれるかもしれません。

エナメル質形成不全は、決して「終わり」ではありません。正しい知識と適切なケア、そして何より、親御さんの愛情があれば、お子様の歯は十分に守ることができるのです。

毎日の仕上げ磨き、定期検診、食生活の見直し―これらは一見地味な作業に思えるかもしれません。
でも、その一つひとつの積み重ねが、お子様の未来の笑顔を作っているのです。

「ママ、パパ、見て!むし歯ゼロだったよ!」

いつかお子様がそう笑顔で報告してくれる日を夢見て、今日からできることを一緒に始めましょう。

お子様の歯は、親御さんの愛情で守られています。

一 覧