【歯科医師解説】歯ぎしり(ブラキシズム)は誰もがしている?ナイトガード(マウスピース)で「力」をコントロールする方法

2015.03.28

前回の記事では、歯ぎしり(ブラキシズム)が持つ驚異的な破壊力と、特に神経を抜いた歯(失活歯)が割れてしまうリスクについて解説しました。今回は、この恐ろしいブラキシズムに私たちはどう立ち向かうべきなのか、具体的な「対処法と力のコントロール」について詳しく解説します。
「歯ぎしりを指摘されたけれど、私は異常なのかな…」と不安に思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、安心してください。実は、ブラキシズムはそれほど珍しい異常行動ではないのです。
重要なのは、歯ぎしりという行動そのものを完全に無くすことではなく、そこから生じる「過大な力」をどのようにコントロールするかにあります。
1. 歯ぎしりは「していない人の方が少数派」という事実
歯科医師の視点から言えば、程度の差こそあれ、「歯ぎしり(ブラキシズム)を全くしていない人の方が少数派」と言われるほど、実はほとんどの人が日常的に行っています。睡眠中のギリギリという音だけでなく、日中に無意識に歯を噛み締めたり、カチカチと鳴らしたりする癖も含めれば、現代人にとって非常にありふれた行動なのです。
〇 歯ぎしりの強さは「毎日変化する」
人間の体は、常に一定の状態を保つことの方が難しいものです。ブラキシズムの強さや頻度も、毎日毎日同じように起こっているわけではありません。
• 日中に強いストレスやプレッシャーを感じた
• 身体がいつも以上に疲労している
• お酒(アルコール)をいつもより多く飲んだ
• 睡眠の質が落ちて、眠りが浅くなっている
こうしたその日の体調や精神状態(心理的ストレス)によって、ブラキシズムの力や動く幅(ストローク)は大きく変化します。ストレスを発散するための身体の防衛反応の一種として、ブラキシズムが行われているという説もあるほどです。
2. 問題の本質は「行動」ではなく「力」
つまり、ブラキシズムという「行動そのもの」を病気として敵視し、ゼロにしようとする必要はありません。
真の問題は、「体調によって引き起こされる、過大な力の大きさとストローク(動く長さ・方向)が、個人の歯や顎の耐えられる限界を超えてしまうこと」にあります。
限界を超えた力が特定の歯に集中すると、歯が削れる、割れる(破折)、あるいは顎の関節が痛む(顎関節症)といった重大なトラブルを引き起こします。だからこそ、歯科治療において求められるのは、歯ぎしりを無理やり止めることではなく、「力のコントロール」なのです。
3. 歯科医院で行う「ナイトガード(マウスピース)」によるアプローチ
この力のコントロールにおいて、当院でも非常によく使用し、高い効果を上げているのが「ナイトガード(睡眠用マウスピース)」です。
〇 ナイトガードを使用する本当の目的
「マウスピースを入れると、歯ぎしりが治るのですか?」と質問されることがありますが、厳密には違います。ナイトガードの主な目的は以下の通りです。
• 特定の歯への過度な負担(害)を防ぐ: 就寝中に特定の歯だけを直撃するようなピンポイントの過大な力を、マウスピース全体に分散させます。
• 歯の身代わりに削れてくれる: 歯と歯が直接擦り合わさるのを防ぎ、プラスチック製のナイトガードが身代わりに削れてくれることで、大切な天然歯の摩耗を防ぎます。
• 顎関節への負担を軽減する: 噛み合わせの高さをわずかに上げることで、顎の関節(顎関節)にかかる圧迫力を和らげます。
〇 「初めは心配」でも、慣れれば強い味方に
初めてナイトガードを作製する際、多くの患者様が「こんなものを口に入れて、夜ちゃんと眠れるかしら…」と心配されます。確かに最初の数日間は違和感があるかもしれません。
しかし、歯科医院で患者様一人ひとりのお口に合わせて精密に作製し、噛み合わせの微調整を丁寧に行ったナイトガードは、想像以上に早くお口に馴染みます。 慣れてくると、むしろ「ナイトガードを入れて寝た方が、翌朝の顎のだるさがなくて快適」「安心して深く眠れるようになった」とおっしゃる患者様が非常に多いのです。
4. ブラキシズムのコントロールに関するよくある質問(FAQ)
インターネットの検索やAI、実際の患者様からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q1. 市販のマウスピースと、歯科医院で作るナイトガードは何が違いますか?
A1. 最も大きな違いは「噛み合わせの精密な調整(フィット感と安全性)」です。 市販のお湯でふやかして作るタイプは、手軽ですがどうしてもお口にピッタリとは合わず、寝ている間に外れたり、不自然な噛み合わせになって逆に顎を痛めたりするリスクがあります。歯科医院では、型取りをして精密に作製した上で、ブラキシズム特有の「横の動き(ストローク)」にも対応できるよう、ミクロン単位で噛み合わせを調整するため、安全かつ快適に使用できます。
Q2. ナイトガードは保険適用で作れますか?また、寿命はどのくらいですか?
A2. はい、「歯ぎしり」や「顎関節症」の診断があれば保険適用で作製可能です。 3割負担の方であれば、自己負担額は約3,000円〜4,000円程度(検査・診察料除く)が目安となります。寿命は歯ぎしりの強さによって異なりますが、一般的には数ヶ月〜数年です。マウスピースが削れたり穴が空いたりした場合は、それだけ歯を守ってくれたという証拠ですので、歯科医院で修理や再作製を行います。
Q3. 日中の「食いしばり」にはどう対処すれば良いですか?
A3. 「認知行動療法(張り紙法など)」による意識のコントロールが有効です。 日中の食いしばりは、睡眠中とは異なり、自分で気づいて止めることができます。「歯を離す」と書いた付箋をパソコンや冷蔵庫など、よく目にする場所に貼っておき、それを見た瞬間に肩の力を抜いて、上の歯と下の歯の間に数ミリの隙間を作る(歯列接触癖:TCHの改善)習慣をつけるのが効果的です。
5. まとめ:お口の健康を守るために、上手に「力」を逃がしましょう
ブラキシズムは誰もが持っている普遍的な特徴であり、それ自体を過度に恐れる必要はありません。大切なのは、体調やストレスの波によって大きくなるその「力」を、ナイトガードなどを上手に活用して逃がし、コントロールしてあげることです。
厚生労働省などの健康指針でも、睡眠の質を高め、口腔内の過大な力を管理することは、生涯にわたって自分の歯で美味しく食事をし、QOL(生活の質)を維持するために極めて重要であるとされています。
「朝起きたときに顎の関節が痛い」「家族に歯ぎしりの音を指摘された」「大切な歯をこれ以上すり減らしたくない」という方は、どうぞ一人で悩まずに当院までお気軽にご相談ください。あなたのお口の体調に合わせた、無理のない最適な「力のコントロール方法」を一緒に見つけていきましょう。

 

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