【歯科医師解説】歯ぎしり(ブラキシズム)の破壊力。神経を抜いた歯(失活歯)が割れやすい理由とは

2015.03.27

日常のストレスや睡眠中の無意識の癖として、多くの人が行っている「歯ぎしり」。 「ただの癖だから」「多少、歯がすり減るだけだから」と軽く考えていませんか?

実は、歯科医師の視点から見ると、歯ぎしりは「大切な歯や顎の骨を破壊しかねない、非常に恐ろしい悪癖」です。

今回は、歯ぎしり(ブラキシズム)が問題になる最大の原因である「過大な咬合力(噛む力)」の驚くべき実態と、特に神経を取ってしまった歯(失活歯)に及ぼす致命的なリスクについて詳しく解説します。

  1. 歯ぎしり(ブラキシズム)で発揮される「異常な噛む力」

歯ぎしり(専門用語で『ブラキシズム』と呼びます)がなぜこれほど問題視されるのか。その最大の理由は、「起きているとき(覚醒時)には絶対に考えられないほどの、過大な噛む力がかかっているから」です。

〇 体重の2倍!?奥歯にかかる驚異の数値

起きているときに「思いっきりギュッと噛み締めてください」と言われて出せる力は、せいぜい自分の体重と同じくらい(体重60kgの人なら約60kg)だと言われています。これでも十分強い力ですが、人間は無意識のうちに痛みを感知して、これ以上力を入れると歯が壊れるという「ブレーキ(生体防御反応)」をかけています。

しかし、睡眠中の歯ぎしりでは、この脳のブレーキが完全に外れてしまいます。

諸説ありますが、睡眠中の歯ぎしり時には、覚醒時の最大2倍近い力がかかっているという報告もあります。 つまり、体重60kgの人であれば、奥歯に120kg以上もの強烈な負荷がピンポイントでかかる瞬間があるわけです。これが毎晩、何十分、何時間と繰り返されていると想像してみてください。

〇 顎の骨が歪むほどの力

診察をしていると、上の歯と下の歯の噛み合わせ面が、お互いに激しくぶつかって異常に摩耗(削れて平らになること)している形をしている患者様がいらっしゃいます。 しかし、その患者様に「カチカチと普通に噛んでみてください」とお願いしても、その摩耗した面同士がピッタリと当たらないことがたまにあります。

これは何を意味しているかというと、睡眠中の歯ぎしり時、「顎の骨や関節がギリギリと歪むほどの、異常な力とポジションで噛み合っている」という証拠なのです。

  1. 神経を取った歯(失活歯)は「枯れ木」のようにもろい

この120kg以上にも及ぶ破壊的な力に対して、特に危険に晒されるのが「過去にむし歯などで神経を取ってしまった歯(失活歯:しっかつし)」です。神経が生きている歯(生活歯:せいかつし)に比べ、失活歯はブラキシズムによって圧倒的に「破折(割れる・折れる)」しやすくなります。

〇 生活歯と失活歯の驚くべき強度の差

抜歯直後の歯をプレス機にかけ、どのくらいの力で破折するかを調べる実験(割裂強度試験など)によると、神経がある生活歯と、神経のない失活歯では、最大で約6倍もの強度の差が出る(失活歯の方が圧倒的に少ない力で割れてしまう)というデータもあります。

そこまで極端なケースでなくとも、神経を失った歯は確実にもろくなっていきます。その理由は以下の通りです。

  • 栄養が届かなくなる: 歯の神経(歯髄)には、細かい血管が一緒に通っており、歯に水分や栄養を補給する役割を担っています。神経を取るということは、このライフラインを失うことを意味します。栄養を失った歯は、みずみずしさを失い、まるで「乾燥した枯れ木」のようにもろく、脆化(ぜいか)してしまいます。
  • 歯が薄くなっている: 神経を取る治療(根管治療)を行う際、どうしても歯の内側を大きく削り込んでウミや細菌を掃除する必要があります。そのため、物理的に歯の壁の厚みが薄くなり、構造的にも構造的にも弱くなっています。

水分を失ってもろくなった枯れ木のような失活歯に、毎晩120kgもの過大なブラキシズムの力がかかれば、歯の根元から「ピキッ」と真っ二つに割れてしまう(歯根破折)のも、決して珍しいことではないのです。

  1. もし歯が割れてしまったらどうなる?

神経が生きている歯であれば、強い力がかかると「痛い」「しみる」という感覚があり、早期に異変に気づけます。しかし、神経のない失活歯は痛みを感じないため、「ある日突然、完全に割れるまで気づかない」という恐ろしさがあります。

〇 根元から割れた歯(歯根破折)の結末

歯の頭の部分(冠)が少し欠けた程度であれば、詰め物や被せ物のやり直しで対応できます。 しかし、歯ぎしりの過大な力によって、歯の根っこの方まで縦に「パカン」と割れてしまった場合(歯根破折)、残念ながら現代の歯科医療でもその歯を残すことは極めて困難であり、高確率で「抜歯」を選択せざるを得なくなります。

せっかく大変な根管治療を乗り越えて残した歯が、歯ぎしりという「力」のせいで失われてしまうのは、歯科医師としてもこれ以上ないほど悔しいことです。だからこそ、失活歯が多い方ほど、ブラキシズムへの対策が急務となります。

  1. 歯ぎしり(ブラキシズム)に関するよくある質問(FAQ)

インターネットの検索やAI、実際の患者様からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q1. 自分は夜中に歯ぎしりをしているか分かりません。セルフチェックの方法はありますか?

A1. お口の中や体調に以下のような特徴があれば、高確率で歯ぎしりをしています。

  • 朝起きたときに、顎の関節のあたりや耳の下がだるい、または頭痛がする
  • 鏡で見たとき、ベロ(舌)の側面にギザギザした歯の跡がついている
  • 頬の内側の粘膜に、白い横線(噛み合わせの線)ができている
  • 歯の先端が削れて平らになっていたり、すり減って黄色い層(象牙質)が見えている

Q2. 歯ぎしりはストレスが原因ですか?

A2. ストレスは大きな引き金(要因)の一つですが、それだけではありません。 歯ぎしりの正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、日常生活のストレスや疲労、浅い睡眠(睡眠の質の低下)、飲酒や喫煙、噛み合わせの不調など、複数の要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。

Q3. 神経のない歯(失活歯)を守るために、今すぐできることはありますか?

A3. 歯科医院で「マウスピース(ナイトガード)」を作製するのが最も効果的です。 睡眠中に装着する専用のマウスピースを作ることで、120kgもの過大な力が直接歯にかかるのを防ぎ、マウスピースが身代わりに削れたり力を分散させたりして、大切な失活歯の破折を防ぐことができます。

  1. まとめ:歯を「力」の破壊から守りましょう

歯ぎしり(ブラキシズム)は、私たちが自覚している以上に、お口全体にすさまじいダメージを与え続けています。特に、むし歯治療などで神経を失ってしまった歯をお持ちの方は、「いつ割れてもおかしくないリスク」と隣り合わせであるという認識を持つことが大変重要です。

厚生労働省や日本顎関節学会などの健康指針でも、ブラキシズムによる過大な咬合力をコントロールすることは、歯の寿命を延ばし、顎関節症などのトラブルを防ぐために不可欠であると位置づけられています。

「朝起きると顎が疲れている」「過去に神経を抜いた歯がたくさんあって心配」という方は、大切な歯が手遅れ(抜歯)になってしまう前に、どうぞお気軽に当院までご相談ください。精密な検査を行い、あなたの大切な歯を「力」の脅威から守る最適な方法をご提案いたします。

次回は、この恐ろしいブラキシズムから歯を守るための、具体的な「対処法や治療法」について詳しく解説します。どうぞお楽しみに。

 

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